今、色々なところで日本のスポーツ界の体罰の問題が議論されていますね。
きっかけは大阪の桜ノ宮高校でバスケ部の顧問による体罰が原因で部活のキャプテンが自殺してしまった事件ですが、そこにはOBや現役の生徒たちからも「先生は悪くない」という意見も多く出ています。
「体罰(暴力)は必要」という意見は珍しくありません。
指導に熱心な先生だったのかもしれませんが、結果はやっぱり結果なんですよね。
これは、スポーツの中だけの問題ではありません。
子育てもそうですが、上司から部下への指導など、指導する人全てに関わってくる所だと思います。
指導する上で、体罰は本当に必要なのでしょうか?
そもそも「体罰」って?
そもそもの話ですけど、今回の一連の事件で「体罰」という言葉を使っていますけど、「体罰」ではないと思うんですよね^^;
「体罰」というのは、「身体的な罰を与える」という意味です。
「罰」というのは、悪事を犯した時に与えるこらしめのことなので、頑張っている選手に指導として行うものではありません。
それをやっているのなら、それは「暴力」だと思います。
「厳しさ」と「暴力」の混同
高いレベルの成長するなら「楽しむ」ということが必要だと思うのですが、同時に「厳しさ」も必要かもしれません。
スポーツの場合は、過酷なトレーニングが必要ですからね。
でも「厳しさ」は「暴力」とは違います。「暴力」は必要ありません。
暴力はなくても、厳しい指導は行えます。
「体罰(暴力)は必要」と言っている方は、自分の経験から発言しています。
でもそれは、「厳しさ」の中に「暴力」が入っていると勘違いしているのだと思います。
おそらく、愛情を持った厳しい指導を受けて成長したのでしょうけれども、その中に悪い部分である「暴力」も含まれていたから、全てをワンセットにして「体罰(暴力)は必要」と言っているのだと思います。
成果を出しながらも暴力を振るう監督は、いじめようと思ってやっているのではなく、「絶対に勝たせたい」、「苦難を乗り越えられる力をつけてあげたい」という強い愛情を持っているはずです。
なので、暴力でもって緊張感や使命感を持たせようとするのでしょう。
または、勝つために自分の気持ちを追い詰めてしまい、つい感情的になって暴力に至ることもあるのかもしれません。
よかれと思ってやっていますし、暴力で一定程度の成果をあげることもできます。
その辺がややこしくしているところなんでしょうね。
「体罰は必要」と言っている方も、それがなかったらもっと成長していたかもしれません。
暴力を振るうことなく厳しくしていくにはコミュニケーション能力が必要です。
暴力を振るう場合と違って、自分で考える時間を与えたり、口で説明して理解してもらったりなど、時間がかかりますしかなり大変です。
でも、本当の意味で成長を促すのは、自分からどうするべきか考える自発性を育て、それを伸ばすことなんです。
暴力で抑えつけて指導するのは、一時的な成績は向上しても、ある程度のレベルで止まります。
それは、恐怖で動いているからです。
そこには自発性はありませんので、「プロ」や「一流」と呼ばれるまでにはならないでしょう。
元巨人の桑田真澄さんも、自身の経験から「体罰は不要」と言っています。
参考:「体罰は自立妨げ成長の芽摘む」桑田真澄さん経験踏まえ | 朝日新聞
野球の強豪校、横浜高校の渡辺監督も、このようなことを言っています。
大家族から核家族の時代になり、今や個の時代。
指導法だけ昔と同じでいいはずがない。
チームの秩序を乱した選手にペナルティーを与えなければならない時もある。
一番効果的なのは野球をやらせないことだ。
参考:(スポーツと体罰:4)横浜高校野球部・渡辺元智監督 | 朝日新聞
暴力なしでもメダル数は一緒
桜ノ宮高校の事件の後、ロンドン五輪代表を含む女子柔道選手15人が代表監督から暴力を受けたと訴える事件もありました。
暴力を受けないと理解できないレベルではないはずですよね^^;
世界でもトップレベルのアスリートでも訴えるのですから、暴力がいかに成長の妨げになるか、考えさせられますね。
そしてそれは結果にも出ていますので紹介します。
ロンドンオリンピック柔道競技で、日本と同じメダル数だった国があります。
フランスです。
日本は、金1、銀3、胴3の計7つでした。
フランスは金2、胴5の7つです。
獲得数は一緒ですが、金メダルの数で負けているので4位となっています。
日本はフランスに負けているんですね^^;
フランスでは「暴力を含めた厳しい指導」をしているのか?というと、それはNoです。
フランス代表チームでコーチを務めたことのある溝口紀子さんによると、フランスは訴訟社会ですので、暴力問題はすぐに訴訟、資格はく奪、辞任に繋がるとのことでした。
フランス代表チームのコーチは国家公務員でもあるので、辞任させられると生活できなくなってしまいます。
なので、どんなにチームを強くしたい思いがあったとしても、暴力を振るうのはもってのほかなのです。
仮に、強くなるために暴力が必要であって、それをきちんと行っているのなら、日本はもっと金メダルを取っても良さそうですよね?^^;
暴力の代わりにコミュニケーションを
ロンドンオリンピックで柔道イギリス代表のコーチを務めた中野和子さんによると、イギリスでは、コーチは選手の質問には論理的な答えを持っていなければいけないのだそうです。
日本でよくありがちな「いいからやれ!」みたいな命令は通用しないとのことです。
イギリスは12年間、柔道でメダルを取れませんでしたが、ロンドンオリンピックで銀と銅を取っています。
強くなった理由は、コーチと選手がきちんとコミュニケーションを取って、意思疎通を図っていたからです。
以前、イギリス代表の密着番組を見たことがあるのですが、選手たちは最初は指導方法に理解がなかったのですが、コミュニケーションを重ねていくことで信頼関係を築き、次第に理解するようになっていったんですね。
その結果なのだと思います。
このサイトは子育てに関することを中心に書いているサイトですが、子育てにおいても同じですね。
子供に何かを教えたり、注意をしたりするのなら、論理的には難しくても、せめて明確な理由は持っておきたいところですね^^
私が、コミュニケーションを通じて上手に選手を伸ばしているなあと感じる監督は、なでしこジャパンの佐々木則夫監督です。
佐々木監督は、今回の問題について
「指導者が未熟だと、どうしてもそういう方法で指導する方向へ走ってしまう。さまざまな分野を熟知して、指導者として質を高めるのが大事」
と言っています。
佐々木監督は、選手を上から目線ではなく、対等の立場で「どうやったら選手の自主性を養うか」を考えている人ですからね^^
佐々木監督の考え方はいつも勉強になるので、私はいつも注目しています。