ちいさな哲学者たちという映画が、
やっと近所で自主上映されるということで早速見てきました。
これは、フランスの幼稚園で、3~5歳の子供達に哲学を学ぶ体験をさせて、
子供達がどのように成長したかを追う、ドキュメンタリー映画です。
「哲学」といっても、大学で習うような難しい哲学の知識を勉強をすることではありません。
テーマを与えてそれについて自由に考え、他人にわかるように発言するということです。
下の動画は、映画の予告編の動画です。
マイケルサンデルの白熱教室の子供版みたいな感じですね^^
子供達は私立に通う特別な子供達ではなく、一般の公立の幼稚園に通う、3歳~5歳のごく普通の子供達です。
その子供達が、「愛とは?」「自由とは?」「死とは?」
「貧富の差はなぜあるのか?」「大人は何でもできるのか?」
といったことをテーマに、次々と議論していきます。
3歳の頃は何をしようとしているのかわからなかかった子供達が、
月日が経つにつれて自由な考えを持ち、考えたことを口に出して言えるようになり、
なぜそのように考えるのか、理由もきちんと説明できるようになっていきます。
そして最後には、他人の違う考えや価値観を知るようになり、
先生が導かなくても自分たちで議論するようになっていくのです。
そのように成長していく過程は目を見張るものがあり、
子どもの可能性を感じさせてくれる感動的な映画なのですが、
先生の子供達への接し方が、いわゆるコーチングの手法を巧みに使っていたのです。
子供の思考を鍛える質問の仕方が参考になる映画にもなっています。
映画のように、どうやって子どもたちと哲学をしていくことができるか、この映画で得た気づきを書いてみました。
授業の準備をする
子供達に考えることを教えるためには、まずは「テーマ」です。
映画では、
- 「愛とは?」
- 「豊かさとは?」
- 「自由とは?」
- 「死とは?」
といった、流行に流れない、普遍的なものをテーマに挙げているようでした。
解釈は人によって違うので、答えというものは存在しませんからね^^
先生は子供と哲学をする前に、テーマについて自分はどのような考えを持っているかを明確にし、質問を用意します。
自分の考えをもっておかないと、質問もできません。
質問は、会話に潤滑油を注ぐような感じで子どもたちに問いかけます。
もちろん質問だけでなく、考えを手助けすることをしてあげる場合もあります。
映画では、一枚の紙に、半分は自由とはどういうことかを、もう半分は不自由とはどういうことかを絵に描かせていました。
哲学する時間をきちんと決める
3歳の子供に、考えたことを言葉にさせるには難しいですよね^^;
当然小さな子供ですから、落ち着いて話を聞かないこともありますし、
最初は、「大人は何をさせようとしているのか?」と戸惑い、
沈黙が続くかもしれません。
自分の考えをもち、言葉を自由に操って表現するためには
長い時間が必要ですから。
だからといって、
「子供はこういうものだ」
と決めつけて何もしなければ、子供の持つ最高の脳力をムダにしてしまいます。
人は訓練をすることで出来るようになることは、大人も子供も一緒です。
しかし、子供は大人よりも集中力はありませんから、
1日のうちわずかな時間だけでも、考えることの練習する時間に使っても良いですよね^^
(映画では1回の授業は10分~45分。話の盛り上がりにあわせて時間が変わるようです)
その際に必要なのは、メリハリです。
映画では、哲学の時間とそれ以外の時間を区別し、いつも同じ形式で授業を行っていました。
具体的には、「哲学の時間になったらローソクを灯し、授業が終わったら消す」というもの。
ほんのちょっとした儀式ですが、
授業の回数をこなすにつれて、これから考えることを始めるという準備を自然にできるようになります。
子供達は、最初はなぜローソクをつけるのかわからないかもしれませんが、
毎日、同じ時間に同じ形式をとることで、体が自然に慣れるわけです。
頭がパパっと切り替わります。
儀式って、大切ですね^^
子どもの答えを全て受け止める
子供との対話に限らず、コーチングの基本となるのですが、
子供の話を聴いたら、まずは全て受け止めることです。
「正解」とは違うと思ってもまずは話を聞いてあげます。
話が繋がっていなかったり、意味不明だったり、
答えとしては間違っていたりする場合が多いと思いますが、
すぐに口をはさんだり、正解を押し付けたりしてはいけません。
正否の判断は抜きにして、このように考えているという事実を受け止めてあげるのです。
哲学の授業をする時、大人の役目は、考えることをサポートすること。
簡単な質問で子供達の考察を展開させる時以外は、口をはさんではいけません。
例えちぐはぐな答えでも、子供にはそのように見え、感じたのは事実でしょうし、
なにより哲学の時間では、正しいのは何かを知ることより、考えて発言することが優先されます。
考える力や人の話を聴く力がつけば、何が正しいか判断する力も後でついてきますからね^^
きちんと最後まで聞いてあげて、質問できそうなところに質問すると、子供はもっと考えるようになります。
腑に落ちないことも多いですが、子供の話した内容についてさらに質問をして、
さらに深く考えさせてみるのも良いでしょう。
そうすると、なぜそう考えるのか、理由を考えるようになります。
子供っぽく扱ったり、茶化したりしないこと
私達はよく、小さな子に対して、ついつい赤ちゃん言葉で話しかけたり、
ちょっと声をかわいくして話したりしますよね^^;
哲学の授業では、3歳の子供であってもそのようなことは一切しませんでした。
丁寧ではあるけれども、小学校高学年程度の子に話すように、普通の言葉で、自然体で話すのです。
変に空想めいたことも言わず、現実に沿って話をします。
子供は、子供扱いすると子供のままでいることに甘えるのです。
普段は良いかもしれませんが、考える時間を作る時は、
メリハリをつけて、普通に対話する気持ちで臨んでも良いですね^^
テーマから外させすぎない
授業を始めて、テーマについて話を進めていると、
全く関係のない話をしだす子も出てくると思います。
その時は、テーマに関する話に戻してあげることも必要です。
映画では、
「それはテーマとどう関係があるの?」
と、子供にストレートに質問をしていました。
このような質問をすることによって、自分で話したこととテーマの関連性を考えますし、
全く関係のない話しだと気づいたら、テーマに戻っていきます。
他人の話を尊重させること
大人でも出来ていない人は多いですが、
他の子が話をしている時に話し始めたりした場合は
「あの子が話をしているから、きちんと聴きましょうね」
と、注意してあげる必要があります。
他人の話を聴くことは、自分とは違う考え方や価値観が存在することを知ることになり、
多角的にものを考える力がつきます。
そして、自分とは違う考え方をもつ他人と議論する力も、聴く力が付いた後で身につきます。
映画では、自分と意見が対立した子を叩いた子がいて、授業が終わった後で先生に、
「叩くことは解決にならない。意見が違う場合はもっと話をすることだ」
とさとされた子がいました。
こういうところではフォローする必要もありますね^^
褒めたり叱ったりする言葉にも気をつける
褒めたり叱ったりする時に、「考えたことは尊重する」ということは大切です。
授業では、子供が頭の中で考えたことを絵にしてみる、という授業がありましたが、
その中で一人の女の子が、クラスメイトのある男の子の絵を描いていました。
先生が、
「なぜこの絵を描いたの?」
と聞くと、女の子は、
「恋人だったから♪」
と答えました。
それを見た男の子は、
「今は違うんだから、描くなよ」
と、不満そうに言っていました。
つまり、幼稚園児でありながら恋人関係があり、既に別れたということですね^^;
それに対して先生は女の子に、
「たとえ今恋人でなくても、あなたは彼を好きになる権利はあるのだから、それで良いのよ」
と言っていました。
価値観や考え方を認めてあげたわけです。
以前、ニューロロジカルレベルで考える、上手な叱り方という記事を書きましたが、
ここでは、「絵を描く」という行為に対して、
「好きになる」という考え方、価値観を褒めるという使い方をしています。
このような使い方ができる機会があれば、どんどん使うと、子供は自分に自信を持つことができますね^^
「ちいさな哲学者たち」は、周りの大人が作る教育環境次第で子どもの可能性が伸ばせることがわかる映画になっています。
質問をして、子供が考え、意見を述べるというシーンが大部分を占めますが、
たくさんの気づきが得られる作品です。
教育に携わる方、子育て中の方にはぜひ見てもらいたいですね^^
自主上映での映画なので、お近くの地域の上映情報は、
公式サイトをご覧ください。